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碧は机に向かって少し身を乗り出しつつ首を捻った。社名からはなんの会社なのか想像もつかない。
「パソコンで勉強できるイーランニングってあるじゃないですか。そのイーランニングの企画会社です。塾や学校向けの学習ソフトを作ってるんですよ。ベンチャーなんですけど、だからこそ勤続年数じゃなく実力で評価される会社みたいです。ここなら久松さんの経験も活かせるんじゃないですか」
経験、とおうむ返しに呟くと、瀬崎はニコニコ笑ってファイルの一番はじめのページを開いた。ここに申し込んだときに書いた、碧の履歴書のコピーが挟まっている。
「講師になる前は教員としても働かれてたんですよね? 現場一筋だった久松さんならではの視点とか、企画できるものとか、いろいろあるんじゃないですか」
いろいろ、ねぇ。
ぼんやりと分厚いファイルを見つめながら思う。
碧が教師だった頃のことなんて、もう親だって覚えてないかもしれない。
たった四ヶ月。まだ二十三歳にもなってなかった。
だけど碧にとっては、忘れられない四ヶ月間だった。
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