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「じゃあね、先生」
漫画をヒラヒラとかざして廊下を歩いていく。女生徒が笑いを含んだ声で言う。
「なんだかんだ言ってさぁ、遠野君て先生の漫画いっつも借りてるよねー」
「そうだっけ?」
ごまかす口調で言っても、わかっていた。家の引き出しにたまった生徒たちからの感想文。差出人の数で一番多いのは暁からのものだった。
女生徒が興奮したように、ね、ね、と碧に顔を近づける。
「遠野君さ、ぜったい先生のこと好きだよね」
エェーとあわてた声を出す。生徒との過剰な接触、誤解を招かれるような行動は控えてください、あなたはまだ若いんだから。初日に指導員に言われた言葉がよみがえる。
「いいなー先生。遠野君人気あるんだよぉ」
女生徒がため息混じりに言う。背の高いきれいな目をした少年に憧れている子が何人かいるのは、碧も知っていた。教壇に立っていると、本人たちがおもってる以上に誰が誰を見ているのかよくわかる。
こまったなぁと笑いながら、少しだけ喜んでる自分もいた。好かれることは悪いことじゃない。まして美少年なら尚良い。そんな軽い気もちで考えていた。
だけど返ってきた感想文を見て、浮ついていた気もちがピリッと固まった。
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