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暁がはっきりと言う。そのままの姿勢で停止する。
「あんたが好きなんだ、先生」
暁が碧を抱きしめる。運動部の子たちが試合に勝ったときにするのとはちがう、独特の熱をもつ抱擁。シャツ越しに重なる腕は大人の男より細いのに、自分より固くて違う匂いがした。
鼓動が熱くはやい。どちらのものかわからず、震えた息を吐いた。
どうしてなんだろう。一瞬前まではたしかに抵抗していたはずなのに。
まるでずっと前からそうしていたように、腕のなかにおさまっている。
黒い目が碧を見つめる。体の奥まで見透かすような、どこか官能的な眼差し。
捕まった、とおもった。
あんな一瞬で、捕らえられてしまった。
サッカー部のかけ声がグラウンドから聞こえる。廊下の向こうでは、生徒たちが笑いながら走っていった。
観念するように、考えを遮断するように目を閉じると、唇に熱い唇の感触が降ってきた。少し薄い背中に手を伸ばす。固い肩甲骨に、胸が熱く甘くうねった。
秘密の時間が、始まった。
子どものころ、いっぱい食べるといけないわよ、と言われたものって、どうしてあんなにおいしかったんだろう。
たとえば、夏のアイス。たとえば、ナッツの入ったチョコレート。
甘いお菓子たちは食べている間はとても幸せで、でもおいしさの分すこし毒もあって。
食べ過ぎると決まってお腹を壊していた。
欲張ってはいけない。
つまり、そういうこと。
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