みんなの、告解の森

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みんなの、告解の森

 京急金沢文庫駅のホームに、三両編成の黄色い電車がゆっくりと到着した。宝塚歌劇団男役スターのステージ衣装のような、キラッキラの装飾を纏った車体には『HAPPY BIRTHDAY 勝利子(かつこ)様』と大書きされた横幕が取り付けられていた。横浜近辺から三浦半島一円で事業を展開している、業界大手『三浦物産グループ』の制服姿の従業員達がにこやかに出迎える中、電車の扉が開いた。  と、中から俺を含め三人の中年男が、団子状態で転がり出てきた。従業員達が、一斉に凍り付く。  俺たちの後ろから、どピンクのイブニングドレスを着た若い女が、ヒールを鳴らして悠々とホームに降り立った。女は出待ちの従業員達をぐるりと見渡すと、微笑んで、こう言い放ったのだった。 「拾ったの。ゴミが三個(三人)、落ちていたから」 ※※※  遡ること1時間前。俺と友人のF岡は、黄金町の映画館「ジャック・アンド・ベティ」で映画を観た後、喫茶店で一服していた。お互い小学校からの同級生で、たまたま用事で久し振りに連絡したら、互いに職を失くして暇だったので、最近何かとつるんで出かけている。 「だけど、人生は変わらなかったな」  F岡はそう言って、ズルズルと珈琲を啜った。 先週飲みに行った帰り、駅張りのポスターの【あなたの人生を変える映画に出会えます】というコピー文句を見た俺が、人生なんか簡単に変わんねえよ。と言ったら、じゃあ観に行って、変わんなかったけどどうしてくれんだよ! っつって鑑賞料金返してもらおうぜ。となり、男二人で映画館に乗り込んだのだった。
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