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 一穂視点  仕事前、突然の着信音に慌てて携帯を探した。こんな時間に仕事のトラブルかと通知を見れば大地だった。 『が・・・ず・・・ほ、助けて』  酷い嗄れ声に驚き電話を切ってすぐ、上司に体調不良だから休みたいと伝えた。有休を使わず真面目に働いてきて良かった。初めての急な休みに優しい上司はお大事にね、と電話を切ってくれた。  合鍵で部屋に入ると真っ赤な顔で息苦しそうにする大地を見つけ体温を確認すると39度6分。  病院を考えるも外に出すことも辛そうでドラッグストアに走った。  大地は初めて会ったときから頼り無さ気な雰囲気でいつも俺達の顔色を伺いながら嫌われないように気を遣い過ぎる奴だった。  日に日に綺麗になっていく、そんな言葉が似合う。男にそんな事を思うなんて弘夢を好きになったことで感覚が少しだけ、いや随分壊れたらしい。大地とは普通にヤれることにも慣れるまでは戸惑った。慣れなのか今は嫌悪など僅かすらない。相当壊れてる。  大地も少し壊れてる。ヤりたいから処理だと、顔に似合わず男っぽい事を口にし恋が分からないと言うのだから。  今日体調不良で頼ってくれた事が俺は嬉しかった。こんな関係だけど大切な良い友達だと思ってる。  大地のお陰で友達の距離を決して崩さない弘夢と拗れずにこれた。俺が大地を引っ張っていたのに、いつの間にか弱い俺を支えてくれている。本音を言える、だらしない俺を素直に見せることができる、そんな大地との時間は俺の安らぎだ。  できることなら大地は理想の相手と幸せになってほしい。俺が無理だった幸せを掴んで欲しい。大地の為なら棘の道も整備してやりたい、もっと甘えて良い、久しぶりに頼ってきた、そんな事を思いながら10時の開店をじっと駐車場で待っていた。
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