ヒミツキチ

2/5

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 アツシは、一人、ソファーに寝そべって漫画を読んでいる。外はしとしと雨が降っていた。 漫画は自分の家から持ち込んだものだ。ここは、アツシの家ではない。 まったく知らない家の居間だ。不法侵入と言われればそういうことになるだろう。 だが、この家には長年誰も住んではいなかった。  アツシ達がこの家を見つけたのは、数ヶ月前だった。山の中で遊んでいると、忽然と古い民家が姿を現した。 「へー、こんな山の中に家があるなんてな。」 タクヤが言った。 「このへんなんて、農作業小屋があるのがせいぜいだよな?」 アツシも同意した。興味半分で、窓から中を覗いてみた。 すると、家具も家財道具もあり、誰かが住んでいるのかと思ったが、どうも人の気配がない。 しかも、中の様子はかなり雑多で荒れ放題。 何度か山に入って遊んでいるが、その家から誰かが出てくる様子も見たことがないし、 だいいち別荘にしてはボロすぎる。 「入ってみようぜ?」 最初、タクヤがそう言った時に、アツシは反対した。 「だめだよ。もし誰か住んでたら、どうすんだよ。」 「平気、平気。そんときゃ、ダッシュで逃げればいいんだよ。」 止めるアツシの言うことも聞かず、タクヤは民家の引き戸をあけた。 驚いたことに鍵はかかっていなかった。 しかし、かなり建てつけが悪くなっているのか、なかなか開かなかったが、 なんとか子供が入れるくらいの隙間があいたので、タクヤは体を斜めにしながら、 部屋の中へと押し入って行った。 アツシも好奇心に逆らえず、タクヤの後に続いた。 一応玄関で靴を脱いで、家の隅々まで探検したが、誰も居なかった。 台所のテーブルの上には、新聞が広げられていて、その隣にはコーヒーカップが、 黒ずんだ得体の知れない固体がこびりついて置かれていた。 昭和60年9月24日。新聞の日付は、その長い不在を告げてセピア色に焦げている。  何度か侵入を試みて、そこが本当の空き家だと知った時に、タクヤが言った。 「ここを俺達の秘密基地にしようぜ。」 それから、アツシとタクヤはその秘密基地にあししげく通っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加