ヒミツキチ

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「あそこは、開かずの間なんだ。」 アツシが何度そう諭しても、探して欲しい、と女の子は泣きべそをかいた。 そんなに大事な縫いぐるみがそんな開かずの間にあるわけがないじゃないか。 あそこは、君の力なんかじゃ開かない。 アツシは、仕方なく、そこを開けるフリをして、開かないことを確認させて、なんとか女の子に諦めてもらおうと思った。  ところが、今までびくともしなかった、そのドアは何の抵抗もなく、すらっと開いたのだ。ドアを開けたとたん、凄まじい臭気が鼻をついた。臭気にむせながらも、ドアからもれる外の光を頼りに中を覗くと、その洗い場には茶色に干からびた小さな人形のようなものが転がっていた。いや、人形ではない。アツシの足元から痺れるような恐怖が這い上がってくる。これは人だ。かなり小さい。  アツシは意味不明の言葉を発しながら悲鳴をあげ、振り返って逃げようとして、何かに足をとられた。 「うさぎの縫いぐるみ?」 そこには、古びてボロボロのうさぎの縫いぐるみが転がっており、女の子の姿は無かった。  アツシは、山の中を必死で駆け下り、ふもとの交番に駆け込んだ。  警察の調べによれば、その風呂場の中にあったのは、幼女の死体だったらしい。その家の住人は、行方不明。両親には多額の借金があり、性質の悪い金融会社からかなり厳しい取立てを受けており、夜逃げしたのではないかと思われていた。その家には、小さな子供も居たので、一家で夜逃げしたものだとばかり思われていたのだ。おそらく、両親が家を出たあと、あの建てつけの悪い窓の無い風呂場に入ってしまい、幼女は出られなくなり死んでしまったのではないかと推測される。山の中の一軒家で人通りもなく、何より、幼女には障害があり、しゃべることもままならなかったのだと言う。  でも、アツシははっきりとあの子の声を聞いたのだ。 「お兄ちゃん、探して?一緒に探して?」 あの声が耳から離れない。 あの子が探して欲しかったものは、あの子自身だったのだろうか。
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