第十四章 新しい仕事

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 俺は早速次の仕事から在庫をケータイの写真に収めることにした。商品は棚に置かれた電気工具のさらに奥の、段ボールの奥に敷き詰められている。段ボールに入っているのだから目分量でも前回との在庫の差は分かる。俺が把握している限り、量に変化は見られない。 (気にしすぎだろ)  そう思いながらも俺は由香里の助言に従ってこっそり写真を取る。由香里の助言に従うのは、俺の中で彼女に対する畏怖によるものだった。由香里は金融部門の隠し倉庫の場所を言い当てた。多くの男に抱かれてきた。そして「組を潰したい」という強い信念を心に持ち続けている。世の中には強い女性が多くいることは知っているが、由香里はそれとは一線を画していると俺は思う。心も体もボロボロになりながら、信念を忘れずに持ち続けている。俺も相当な覚悟を持って「組を潰す」と思ってきたが、由香里ほど一貫した信念を持ち続けることは残念ながらできていない。おそらく由香里がいなかったら、俺は組を潰すことを諦めて、出世に心血を注いでいるはずだ。そして五年後には死んでいる。  由香里の言葉を信じるのは「死にたくない」という一心だった。もちろん、彼女を好きだと言う気持ちも要因ではある。だがそれ以上に、「彼女について行けば俺は死を逃れられるのではないか」という期待が心にあるのだ。一枚、一枚と写真は仕事の度に溜まっていく。在庫の量は依然変わらない。二週間が経つ頃には写真を取ることを忘れそうになる。写真を撮っても無駄だと少し思うようになってきた。結局、毎日変わらないんだ。写真なんかどうでもいいと思っても不思議ではないだろう。  だが俺は在庫の写真を撮り続けた。きっと由香里だけが掴める確信があるはずなのだ。それが何か、本当はずっと本人に問いただしたい気持ちでいっぱいだった。 「毎回写真撮ってるけど変わらないぜ。君はいったい何を知っているんだ?」、と。 だが、俺は由香里を問い詰めることは一切しなかった。聞いても由香里は答えてくれない気がしたし、それに由香里が確信している根拠が何か。それを自分で突き止めることが「組を潰す戦略」に繋がるのでは。なぜかそんな気がしていた。
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