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「本当に来るんですかねぇ?」
「来るったら、来る! 『彼女』は絶対に来る! あたしの勘も、そう言ってるわ」
ここは閑静な住宅街。そこそこ大きめの一軒家から少し離れた場所で、数人の警察官と一人の女子高生が張り込みをしていた。
「前回も同じこと言って、結局来なかったじゃないですか」
「前回は、月が雲に隠れてしまったせいよ。今夜は雲ひとつ無い絶好の月見日和。必ず来るわ」
「ウゥゥワンッ! ワワン! ワンワンッ! ワンワンワンッ!」
「怪しいやつがいたぞ! そっちに行った!」
番犬が吠えると、家の方から逃げるように走っていく人影が見えた。
「来たああああっ!! 追うわよ!!」
少々ゆるふわ気味なショートヘアを揺らし、勢いよく人影を追う女子高生。その後ろを付いていく警官たち。
人影の逃げる速度は、それほど速くなく、警官の一人が追いついて人影を捕まえた。
「これが怪盗ゴシックフェアリーですか?」
「……違う。どうみても、怪盗とは正反対じゃないの」
人影の正体は、白い修道服を身にまとった若いシスターだった。頭に被っているベールから、履いている靴まで含めて全身真っ白で、神秘的な清楚さを醸しだしていた。
「念のため訊くけど、シスターさん。どうして逃げたのかしら?」
「わ、私……ワンちゃんが苦手で……歩いてたら、突然吠えてきて……。それで驚いて……」
息を整えながら、シスターは下を向いたまま、恥ずかしそうに顔を隠して、ゆっくり答えた。
「犬ぅ!? こんな時に何て紛らわしい……」
女子高生が落胆すると、監視していた邸宅の方から笛の音が聴こえた。アルトリコーダーにも似た音色だ。
「笛? これ、何ですかね?」
「角笛の音色よ。『彼女』よ! 現れたんだわ。戻るわよ!」
女子高生が警官たちに合図するも、警官たちは上を見上げたまま、動こうとしない。
「どうしたの? ……あっ!」
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