第1章

16/16
前へ
/16ページ
次へ
「泣き言ばっかりいってごめんね、私も今日、たかひろ君と一緒にいようと思って家を出てきたの。だからちゃんと最後までしたい」 「ねえ、それってもしかして……」  彼女が真剣な面持ちでいう。 「……そういうこと、いいよ」  彼女は満面の笑みで頷いた。  その時に俺はやっと現状を理解した。彼女は俺の突っ込みが今日は帰らないぞ、という合図に聞こえたのだ。  彼女の誤解からだが、それでもいい。俺が今からやりたいのはそういうことなのだ。  ……親父、あんた、最高に生かしてるぜ!  俺は心の中でそう叫んだ。親父のせいで俺の心は最初、雨のように暗く淀んでいたが、今は綺麗な虹が見える。そう、虹は雨が降らないと見ることができないのだ。  ノーレイン、ノーレインボーだ。俺は今から大人への階段を登るのだ。  ……親父、俺は今から俺のライブ会場へ向かう。  親父を思いながら、俺は初めてラブホテルのドアを開けた。  もちろん、最初の曲はヘブンズドライブだということはいうまでもない。     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加