第1章

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 俺は怒りで身を焦がしそうだった。誰がこんな手の込んだものをくれといったのだ。ハイドだ、俺が欲しかったのはボーカルのハイドだ。  だがまだ後、四枚もある。  きっと親父の洒落っ気だろう。あの親父、粋なことしてくれるぜ。  次にとった団扇には甲子園を目指していた兄貴の代わりにピッチャーをしている弟が映っていた。 「タツヤじゃねえよ!」  俺は団扇を地面に投げつけた。 「え? たかひろ君、大丈夫?」 「ごめん、ちょっとライブが始まるから気合を入れようと思って」  彼女の反応に気遣いながら改めて団扇を確認する。そこにはタツヤがホームベースを持ってバントしている姿があった。 「そのベースじゃねえよ!」  俺は再び叫んだ。ちなみに彼らがやっているのはバンドだ。  ……あの野郎、頭大丈夫なのか?  俺は再び我を忘れて叫びたい衝動に駆られた。だがそんな暇はない、もうライブは始まってしまうのだ。  残り三枚に掛けるしかない。  親父、頼むぞ!  俺が欲しいのはハイドだったが、これはベースのテツヤでもない。俺が欲しいのはラルクのメンバーだ。この際、ハイドじゃなくてもいい。
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