第1章

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 俺は小さく呟いた。すでに怒りは収まっていた。これ以上、こいつの冗談に付き合っている暇はない。大人のお猿さんの上に、小さいお猿さんが乗っており、その子が二つのスティックを持っているのだ。きっと彼はドラムのユキヒロを思ってこれを作ったのだろう。 「たかひろ君、早く」  ようこが隣で叫んでいる。すでに会場は暗くなりつつある。 「ああ、わかってるよ!」  俺は逆切れしながら団扇を掴んだ。  いいだろう、最後の団扇でこの会場を乗り切ってやろうじゃねえか。  俺は最後にとった団扇を天井に掲げた。そこにはきちんと四人のメンバーが映っていた。 「なんだ、ちゃんと持ってるじゃない」  ようこは大きく吐息をついていった。 「ああ、そうみたいだな」俺はそういって溜息をついた。「中々面白かったよ、親父」  俺は親父を思いながらライブ会場を待つ。  ライトが消え、ラルクのメンバーを待つことになった俺たちは皆、静まり返った。  やっと彼らに会える。俺は嬉しい気持ちを取り戻しながらも団扇を眺めた。そこには蛍光塗料によって緑色の肌になっている四人のメンバーが映っていた。 「それはハルクだよ!!!」  俺は団扇をへし折った。 「たかひろ君?」
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