第1章

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 今日は帰りが遅くなる、しかも明日は休みだ。もしかすると、俺の初体験が今日か明日になる可能性がある。  今日は気合を入れていい所を見せなければならない。 「ねえ、たかひろ君。今日は誰の団扇持ってきた?」  ……え?団扇?  俺は意味がわからず口をぽかんと開けていた。 「持ってきたんでしょ、団扇」  ……ちょっと待てよ。  俺はSMAPの誰かを想像しながら思考に集中する。思い出した、昨日彼女とデートした時の会話だ。  俺は彼女とのデートに夢中で、彼女の話をほとんど聞いていない。適当に相槌を打っていたため、きっと彼女が団扇を作った話になったのだ。それで俺が頷いたため、団扇を作ってきている、という話になっているらしい。  もちろん団扇などない。盆踊り会場があれば入手できるのだが、残念ながらすでに過ぎている。今は秋だからだ。この電車の中で団扇になる代用品はない。 「ああ、あるよ」  俺は冷や汗を流しながらいう。この中にラルクの会場に行く者がいて、メンバーの名前が入っている団扇があれば言い値で買いたい。今日の財布はホテル代まで入っているのだ。最悪のケース、いや最高のケースを考えてだ。 「でも、今はちょっとね。人が多いし恥ずかしいしさ」
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