第1章

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 彼女の手を握りながら、反対の手で団扇を想像する。どうやったら代用品を手に入れることができるかだ。俺の頭の中はそれしかない。  会場につき、お互いの席を確認する。俺たちのようにファンクラブに入れてない(高校生には高すぎるからだ)ものにはいい席がとれない。コンビニで買ったチケットなのであまり期待はしていなかったのだが……。 「ねえ、見て。凄く近くない?」 「本当だ」  俺は自分の席を見てびっくりした。双眼鏡がなくてもメンバーの顔が目視できる距離だ。距離にして10mもない。これは運命を感じずにはいられない。  周りを見ながら俺は想像する。きっとこの席は後から作られたのだ。人数が増えすぎたため、ここにあった席を取り除いて立ち見にしたのだろう。 「緊張してきた、ちょっとトイレ行ってくるね」 「ああ、俺も」  そういって思い直した。ここで嘘がばれてはまずい、なんとかして団扇を手に入れなければ。  貴重品を携えた俺たちはトイレで別れた。もちろん俺は外に出て団扇を探す。できれば手作り感がある店だ。  探していると、一つの物販があった。テントがすでに手作り感丸出しだ。 「すいません、手作り感のある団扇、下さい」  店主を見ると、坊主頭にオレンジのサングラスをしていた。肌も黒く、体もでっぷりと貫禄がある。
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