第1章

9/16
前へ
/16ページ
次へ
 親父に渡されたものをポケットに突っ込んで俺は駆け抜けた。手の平で収まるものだった。早く戻らなければ彼女が待っている。  会場に戻ると、もうすでに始まりそうな雰囲気になっていた。彼女を見ると少しだけ機嫌を損ねているようにみえる。 「おそーい、もう始まるよ」 「ごめんごめん」  俺は謝りながら手に持った袋を隠す。鞄に入れてないため、外で買ったことがばれたらまずいからだ。  彼女に背を向けながら団扇の入ったビニールを破る。シンプルな作りに俺はそっと胸を撫で下ろす。親父、いい味だしてるじゃないか!  早速、一つの団扇を取った。そこにはマイクを持って歌っているアルプスの少女がいた。 「ハイジじゃねえよ!」  俺は団扇を引っくり返した。 「何、どうしたの?」 「いや、何でもない」  改めて団扇を確認する。そこにはハイジがマイクを持って、羊や山羊の前で歌っている姿があった。その横でペーターが箒でギターを演奏しており、後ろで木こりのようなおじいさんがヘッドフォンを掛けながらDJをしていた。  ……あの野郎。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加