第3章 リスベラントへようこそ

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 一応、公爵令息であるルーカスが先導しているせいか、行く手を遮って面と向かって罵倒する者は居なかったものの、少し離れた所からこそこそと、あるいははっきりと聞こえる様に囁いてくる悪意のある呟きに、ルーカスは徐々に表情を険しくしながらも無言を保ち、藍里は遠い目をしてやり過ごした。ジーク達が、ルーカスがいつ激怒するか、それ以上に藍里が予想の斜め上の暴走をしないかと、戦々恐々としながら廊下を進んで行くうちに、無事目的地へと辿り着く。 「それではこちらでお待ち下さい」 「分かった。取り次ぎを頼む」  案内役の役人が頭を下げて出て行くと、応接室に取り残された藍里達一行は緊張から解放されて一気に全身から力を抜いたが、ここで入って来たドアとは別なドアから、ある人物がノックも無しにいきなり入室してきた為、ぎょっとしてそちらに視線を向けた。 「まず室内の点検と、安全確保が先だろう? そんなだらけた態度がダニエルに知られたら、嫌味だけでは済まないと思うが?」 「父上!? どうしていきなりここに!」  狼狽してソファーから立ち上がったルーカスを見て、藍里も僅かに顔色を変えた。 (父上って、リスベラントとアルデインを統治している、ディアルド公爵本人!?)  この人物に挨拶に来たにも係わらず、予想外に向こうから電撃訪問してきた事で、それなりに肝の据わった藍里も、さすがに動揺せずにはいられなかった。思わず腰を浮かせかけた藍里だったが、ランドルフがさっさとソファーの方に移動しながら言い聞かせてくる。 「まず座りなさい。話はそれからだ」 「そうですね。ほら、アイリ。座れ」 「ええ……」 (なんでいきなり現れるのよ、この公爵様!? 用意周到に準備していた初対面の挨拶の言葉、どこかに吹っ飛んじゃったわ!!)  そんな藍里の顔を見て、ランドルフは向かい側のソファーに座りながら苦笑を漏らした。 「堅苦しい挨拶は抜きで構わない。そんなつまらない社交辞令を省く為に、側近を巻いてこっそり来たからな。それで驚かせた事で、君が用意周到に準備していた挨拶の言葉を吹っ飛ばしてしまったのは、申し訳ないとは思うが」 「何、この人、他人の心が読めるの!?」  自分の横に座り直したルーカスに藍里が思わず声を荒げて尋ねると、彼が盛大に叱りつけた。 「父上を『この人』呼ばわりするな! お前は思った事が、顔にまともに出るだけだ!!」
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