第3章 リスベラントへようこそ

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 怒鳴りつけたのはルーカスだけだったが、彼らの背後に控えていたジーク達は、揃って顔を押さえて項垂れた。そんな面々を見回して、ランドルフが益々楽しそうに笑う。 「あのダニエルの娘で、カイルとユーリの妹だからどんな娘が来るかと思えば……。よくよく考えてみたら、あのマリーの娘でもあったな。納得した」 「こっちは、もの凄く納得できないんですけど?」 「お前は、少し黙っていろ!」  不満顔の藍里を一喝したルーカスは、本来の話に入るべく、軽く咳払いしてから真面目な顔で話し出した。 「父上、こちらがグレン辺境伯こと、ダニエル・ミュア・ヒルシュの長女で、アイリ・ヒルシュです。今回、三日後に開催される御前試合の許可を頂いた事についての、お礼言上に参りました。……ほら、アイリ」 「えっと……。初めまして、アイリ・ヒルシュです。御前試合の許可を頂き、ありがとうございます。加えて常日頃私の家族が、お騒がせしているみたいで、色々と申し訳ありません!」  そう言って座ったまま勢い良く頭を下げた藍里に、ランドルフが鷹揚に頷く。 「なに、ヒルシュ家の面々が、騒ぎを起こすのはいつもの事だ。寧ろ静かに大人しくしていると、何か密かに企んでいそうで不気味だからな。気にしなくて良い」 「はぁ……」  そこで唐突に、ランドルフが話題を変えてきた。 「ところでアイリ嬢。数年前まで、長期休暇の時にはリスベラントに来ていたらしいが、久々にこちらに来てみてどうかな?」 「そう言われましても……。正直、リスベラントに来ていた時の記憶が曖昧、と言うか、今冷静に考えてみると、家族から変な意識操作とかを受けていた気がします」 「具体的には?」 「完全にリスベラントは、アルデインの事だと思っていて、ちょっと辺鄙な田舎だとしか思っていませんでした」  考えながら正直に口にした藍里に、ランドルフが興味深そうに尚も尋ねる。 「なるほど。そうすると、生活様式の違いにも、全く違和感を覚えていなかったと?」 「はい。ですから今回、トイレが水洗では無いのを目の当たりにして、衝撃を受けました」  藍里が真顔でそう告げた途端、正面のランドルフは目を瞬かせ、隣のルーカスからは猛抗議を受けた。 「真顔で言う事か! それ以前に、もっと違う所は色々あるだろうが!?」 「勿論、一番衝撃を受けた事は別にあるわよ!!」
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