第3章 リスベラントへようこそ

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 周囲が一気に脱力する中で、ランドルフは一瞬唖然としてから小さく笑ったが、その笑顔のまま話を続けた。 「それでは君が、こちらに来て一番衝撃を受けた事とは何かな?」 「月です」 「ほぅ?」  藍里が端的に告げた途端、ランドルフは瞬時に笑みを消し、怖い位の真剣な顔になった。それを見たルーカスも何事かと黙り込む中、藍里が慎重に考えながら話し出す。 「日中は全く気になりませんでした。空は青いし、白い雲が流れているし。太陽も照っていて、『向こうと全然変わらない。この世界を作ったリスベラさんって凄い』と、内心で感心していたんですが……」 「それで?」  困惑気味に口を閉ざした藍里に、ランドルフが冷静に話の先を促してきた為、彼女は思い切った様に話を続けた。 「夜、寝る時に空を見て、初夏なのに冬の星座が見えました。それはそれで、このリスベラントが出来た時期が冬で、星の変化までは複製できなかったのかと思いました。ですが明け方空を見たら星はきちんと移動していたのに、月が全く移動していませんでした」 「そうだ。向こうの世界とは異なり、こちらの月は移動しない」  頷いて認めたランドルフに、藍里は確認を入れた。 「月だけでは無く、太陽も移動しませんよね? 私が明け方見ていた時、微動だにしていなかった満月が、そのまま明るさを増して、太陽になっていました」 「そうだ。リスベラントでは、昼に輝く物を太陽、夜に輝く物を月と呼び分けるだけだ。月は動かない事に加えて満ち欠けもしないから、普通の者達には新月や半月などの概念も存在しない」 「すみません、『普通の者達』と言うのは?」  意味を捉え損ねた藍里が不思議そうに尋ねると、ランドルフは一瞬怪訝な顔をしてから、思いついた様に解説を加えた。 「そうか、君にはピンとこないか。リスベラントとアルデインを行き来できるのは、基本的に貴族以上の人間か、業務上許された人間のみだ。彼等はアルデインで本来の太陽や月を目にしているし、向こうの進んだ医療、専門的な教育、幅広い娯楽を享受できる」  そう言われた藍里は、若干顔を顰めながら、今聞いた内容の逆説的内容を口にする。 「そして『普通の者達』は、文化レベルが遅れたままの生活を送っていると?」 「そういう事だ。……不服かね?」  笑みを消して尋ねてきたランドルフに、藍里が淡々と答える。
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