第3章 リスベラントへようこそ

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「いえ、リスベラントの国民で無い私が、どうこう言う筋合いの事では無いと思います」 「君も立派なリスベラント国民なのだが。きちんとこちらの戸籍もある」 「そうですか……」  そこで室内は微妙な空気に包まれ、ルーカス達はハラハラしながら二人の様子を見守ったが、ランドルフは気を悪くした様な風情は見せず、さり気なく話題を元に戻した。 「それで? 言いたい事はそれだけかね?」 「いえ、月から太陽に変わるのを見てから、ずっと考えていました。どうしてこの世界を作った人は、太陽と月をこんな風にしたのだろうと」  真顔で藍里がその疑問を口にした途端、ルーカスが如何にも呆れたと言った口調で、口を挟んできた。 「は? お前、何を言っている」 「だって、雲だって自然に流れて、適度に雨だって降っているでしょう?」 「それはまあ、そうだが?」 「それに星だって、季節で移り変わるのは無理みたいだったけど、向こうと同じく東から西に動いていたわ。それなのにどうして太陽や月だけは少しも動かないで、明るさが変わるだけなの? できるだけ向こうの世界を模倣するなら、それぞれ昼と夜に動かせば良いんじゃない? 星が動かせるなら、できると思うわ」  そこまで言われて、ルーカスは急に自信無さ気に応じる。 「それは……、何か理由があるんだろう。そうするには、何か魔術的に難しい何かが」 「魔術的な理由では無いと思うわ」 「それなら、何だって言うんだ?」  あっさりと否定されて、ルーカスは半ばムキになって言い返したが、続く藍里の主張に、驚いた様に目を見開いた。 「誰もが目にする太陽と月を、敢えて向こうの世界と違う様にしたのよ。このリスベラントは自分達が本来住む世界ではない、異世界だと言う事を忘れないために」 「何だと?」 「最初にここを作ったご先祖様達は、凄い努力をしたと思う。こんなに元の世界とそっくりに作って。だけど本当は、元の世界に帰りたかったのではない? だから自分達は無理だろうけど、後の世代には戻って欲しくて、その人達が生まれ育ったここが、本来生きていく場所では無いって事を忘れて欲しくなくて、わざと目に見えて分かる違いを作ったんじゃないかしら」 「…………」  それを聞いたルーカスは勿論、室内にいた全員が無言で藍里を凝視すると、その視線を感じた藍里は、居心地悪そうにランドルフにお伺いを立てた。
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