第3章 リスベラントへようこそ

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「え? あ、あの……、私、何か変な事を言いました?」 「いや……、別におかしくは無い」 「そうですか」  そう言われて藍里が安堵していると、慌ただしくドアがノックされたと思った直後、ランドルフと同年配の男が、ドアを開けて顔を覗かせた。 「ああ、公爵閣下、こちらにいらっしゃいましたか。探しましたよ?」  その安堵と怒りをない交ぜにした顔を見て、ランドルフが苦笑しながら立ち上がった。 「おや、見つかったか。もう少しのんびりできるかと思ったが。それではこれで失礼する」 「お忙しい中お時間を頂き、ありがとうございました」  藍里も自然に立ち上がり、彼に向かって頭を下げた。すると彼女に向かって、ランドルフが右手を差し出してくる。 「リスベラントへようこそ、アイリ・ヒルシュ。近いうちに君の呼称に『ディル』が付く事を願っている」  その真摯な口調と表情に、藍里も反射的に真顔で手を伸ばし、その手を固く握り返した。 「奪ってみせます」 「頼もしいな。……皆は引き続き、アイリ嬢の警護と必要知識の講義を頼む」 「……はい」 「畏まりました」  藍里の宣言に小さく笑ってから、ランドルフはルーカス達に向き直った。そして最後にセレナに声をかける。 「セレネリア」 「はい」 「暫くは戻らなくて良い。益々居心地が、悪くなっているだろうからな」 「ありがとうございます」  藍里的には(第二公妾なのに、それで良いの?)とは思ったが、本人がどこか安堵している様子なので、余計な口は挟まなかった。そして側近らしい男に急かされてランドルフがドアの向こうに消えた途端、彼女は真顔でルーカスに向き直って確認を入れる。 「取り敢えず、これで終わり?」 「ああ……、そうだが……」 「いやったぁ~、緊張したぁぁ~。さっすが一国のトップ。眼力がハンパ無かった~」 「…………」  盛大に伸びをして、如何にも開放感溢れる表情と様子の彼女を、他の者が何とも言えない表情で眺めていると、流石に気付いた藍里が変な顔をしながら尋ねた。 「あれ? さっきから黙りこくって、皆、どうしたの?」 「何でもない。さっさと屋敷に戻るぞ」 「はぁい。だけど、ルーカスのお父さんにしては、話が分かるナイスミドルよね!」 「…………」 「だからどうして黙っているのよ? 気色悪いけど」
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