第3章 リスベラントへようこそ

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 そこで歩きかけたルーカスが再び歩みを止めた為、不思議そうに藍里が声をかけると、ルーカスは勢い良く背後を振り返って彼女を叱り付けた。 「お前の神経が、図太過ぎるからだ!!」 「なんですって!? 私が何をしたって言うのよ!!」  そこで口喧嘩が勃発した二人をジーク達は何とか宥め、すれ違う人間達の視線を再び集めながら公宮から出た。そして藍里達の乗る馬車の背後を馬で付いて行ったが、公宮を出てすぐに馬を並べているジークが声をかけてくる。 「殿下、どうかされましたか? 先程から、顔色が優れませんが」 「すまない。体調が悪いわけではない。考え事をしていただけだ」 「考え事、ですか?」  不思議そうに尋ね返してきた彼に、ルーカスは尚も少し考え込んでから、思い切った様に尋ねてきた。 「ジーク。お前は魔力無しと判定されて、向こうの世界に出された時、世界の違いにショックを受けなかったか?」  その質問の意図が掴めないながらも、ジークは正直に思っている事を告げた。 「勿論驚きましたし、慣れるのに暫くかかりました」 「俺もだ。だが太陽と月に関しては、これはこういう物だという事実だけ理解して、どうしてそうなったのかなんて、考えてみた事も無かった」 「それは、私も同様です」  何となく相手の言いたい事が分かってきたジークが神妙に応じると、ルーカスは自問自答する様に言い出した。 「良く考えてみれば、リスベラントで生まれ育った者が向こうの世界に行く事はあっても、向こうで生まれ育った者がリスベラントに来る事は、建国以来殆ど無かった筈だよな?」 「確かにそうかもしれません」 「だから辺境伯夫妻は、敢えて向こうで育てたのでは……、とか思ってな。思考形成には、環境が大きな影響を与えるから」 「殿下は何を言いたいのですか?」  ジークがそうお伺いを立てたが、それに対してルーカスは些か投げやりに首を振っただけだった。 「悪いが、単に思いついた事を口にしただけだ」 「そうですか」  そこで二人は会話を止めて、無言で馬を進めた。    翌朝、朝食後に三兄妹だけで何やらコソコソと話をしていたと思ったら、界琉は槍を、藍里は藍華を手に、辛うじて瓦礫に覆われていない門から正面玄関に続く道の所で、何やら妙な事を始めた。 「お前達……、明日は御前試合だって言うのに、何をやっている?」
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