第4章 御前試合開催

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「まあまあ、界琉は昔からちょっと引っ込み思案で目立つのが嫌いだし、お茶目な性格だから敢えて黙っていただけだから」  その白々しい物言いに、その場にいた殆どの者が(それは一体誰の事だ!?)と心の中で突っ込みを入れ、ジークは疲れた様に溜め息を吐いた。 「お前も、本当に相変わらずだな、悠理」 「理解者がいてくれて嬉しいよ。ジーク兄ちゃん?」 「…………」  全く悪びれない笑顔の悠理から、子供の頃の呼び名で言われたジークは、何とも言えない表情で黙り込んだ。そして界琉も、それ以上事を荒立てるつもりは無かったのか無言を貫き、この隙にここを抜け出そうと、ルーカスが藍里に声をかける。 「そろそろ出発するぞ」 「そうね。じゃあ先に行っているから」 「ええ、頑張ってね」  そして軽く手を振って藍里が断りを入れると、家族が玄関先で彼女達の出発を見送った。  藍里を乗せた馬車は、暫くして央都の端に位置している、ほぼ円形の競技場に到着し、開けられた扉から地面に降り立った瞬間から、藍里達は依然と同様、様々な思惑が入り交じった視線を受けた。 「競技場で試合をするとは聞いていたけど、想像していた物より随分立派ね。……突き刺さる視線が、心地良いし」  入口から中に入り、競技場の廊下を進みながら藍里がボソッと皮肉っぽく呟いた言葉に、ルーカスが苛立たしげに反応する。 「お前が、珍妙な格好をしているからだ!」 「失礼ね。振袖と比べたら、立派な戦闘衣装よ?」 「あのな……」  盛大に怒鳴りつけようとしたルーカスだったが、ここでウィルが若干慌てながら会話に割り込んだ。 「緊張していないみたいで、良いじゃありませんか。アイリ嬢、ここが控え室です。試合開始まで三十分位時間がありますから、少し休んでいましょう。セレナ、お茶でも淹れてくれないか?」 「ええ」  控室に入るなり、ワゴンにお茶の支度が整えられているのを見たウィルがセレナに頼んだが、彼女がそれに応じて動き出そうとした所で、藍里がのんびりと声をかけた。
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