第4章 御前試合開催

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「当人が降参の意思を明らかにした時、もしくは審判が試合続行不可能と判断した時です」 「なるほど。それではもう一つお伺いします。この競技場は石造りみたいですが、試合は一応戦闘になるわけですし、攻撃の余波で壊れたりしませんか? 観客もいるみたいなので、周りに被害が出たら危ないと思いますが」  心配そうにそんな事を尋ねた藍里に、カールが若干せせら笑う様な顔つきで応じる。 「ご心配なく。その為に審判が配置されていますので。審判は試合の内容に責任を持つと同時に、競技場の外に被害が及ばない様に、防御する役割も担っております。今回は聖紋持ちのアイリ様が参戦されると言う事で万全を期しまして、我らディル保持者四人が対応する事になりました。どうぞご安心下さい」 「そうでしたか。皆様が責任を持って防いでくれると聞いて、安心しました。今日は宜しくお願いします」 「お任せ下さい。それでは失礼します」  双方笑顔で会談を終わらせ、四人はどこか馬鹿にした表情でその場を後にした。そしてドアが閉まると同時に、ルーカスが藍里に向き直って、勢い良く頭を下げる。 「すまん、アイリ。事前に確認しておくのを怠った」 「いきなり何? 審判が四人とも、相手方の息がかかった人間になったのは、ルーカスのせいじゃ無いでしょう?」 「それはそうだが……、そこまで性根が腐っているとは思わなかった。父上に言われている様に、俺はまだまだ甘いらしい」 「十代の若造が、あんな老獪熟年に敵うわけ無いでしょ? 気にするだけ無駄よ」  心底悔しがっているルーカスを藍里が苦笑しながら宥めるという、いつもの二人の関係からするとかなり珍しい光景になったが、他の者達はそれを微笑ましく眺める心境にはなれなかった。 「ですが、あの者達が、試合中に何か仕掛けるつもりでは……」 「それは考えられるけど、公衆の面前で試合をするわけだし……。そんな大っぴらには裏工作できないわよね?」 「だと思いますが……」  それでもまだ不安を隠せないセレナに、藍里は着物の合わせ目から小型のICレコーダーを取り出しながら言ってのけた。 「まあ、何か問題が起きたら、あの人達の責任を問えば良いわ。周りに被害が出ないように万全を期す為に審判をやると宣言していたし、実際そうなのよね?」 「録音していたんですか?」  呆れ気味にジークが呟くと、藍里は彼に向かって楽しげに微笑む。
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