第4章 御前試合開催

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 いつの間にか対戦相手のすぐ前に来ていた事に気が付いた藍里は、目の前の二十代後半に見える男に、素っ気なく言い返した。 「何でしょう。礼儀知らずの物知らずさん」 「何だと!?」  思わず声を荒げて怒鳴りつけようとしたアンドリューだったが、ランドルフが居る辺りから、誰かの鋭い叱責の声が飛んでくる。 「何を騒いでいる! 公爵閣下の御前だぞ!!」 「ちっ……」  忌々しげに舌打ちしてアンドリューが口を閉ざすと、ここでゆっくりと立ち上がったランドルフが、張りのある声を競技場の隅々にまで響かせた。 「この場に集まった皆に宣言する。この度、私ことランドルフ・アル・ディアルドは、アンドリュー・オランデューが保持するディル位をかけて、アイリ・ヒルシュが彼に挑む事を了承し、この場でそれを見届ける事とする」  ここまでは通常の御前試合の宣言内容と、何ら変わる所が無い為、観客は静かに公爵の言葉に聞き入った。しかし次の言葉に、大方の者が顔を見合わせる。 「尚、この試合の審判として、四人のディル位保持者が自ら名乗り出た事を嬉しく思い、試合の運営と安全を保証してくれた事に感謝し、それに関しての全権を与える事を併せてここに宣言する。宜しく頼むぞ、カール、ロナルド、パトリック、アスター」  塀の上に待機していた四人は、名前を呼ばれたと同時に立ち上がってランドルフに一礼し、四人を代表してカールが恭しく宣言した。 「お任せ下さい。問題無く、遂行してご覧に入れます」  それを観客席の中を移動しながら聞いたルーカスは、憤慨した様子で空いていたセレナの隣の席に腰を下ろしながら、悪態を吐いた。 「あいつら、立候補しやがったのか!? それなのに、どうして父上はそのまま受け入れるんだ! あいつら絶対、何か企んでやがるぞ!?」 「ルーカス様、声が大きいです」 「構わん! どうせ向こう側には聞こえないだろうし、仮に聞こえてもあいつらが気にする筈が無いだろう!」 「ですが……」  困った顔でセレナが宥めているうちに、進行役が対戦者二人に声をかけた。 「それでは試合を開始します。双方、武器を構えなさい」  それに応じてアンドリューは持参した剣を鞘から抜き放ったが、藍里は小さく「開、起」と唱えて、左腕に装着している紅蓮から藍華を取り出して構えた。するとそれを見たアンドリューがせせら笑う。
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