第4章 御前試合開催

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「何だ、その不格好な槍は? 随分、珍妙な姿で出て来たと思ったら、ヒルシュ家は武器までまともな物を用意できないとみえる」 「まともな武器を用意しても、珍妙な衣装の女にズタボロにされたらね……。本当に、あなたのお兄さんには同情するわ。勿論、あなたにも同情してあげる」  その痛烈な皮肉に、アンドリューは忽ち憤怒の顔付きになった。 「同情だと? この身の程しらずが! すぐに後悔させてやる!!」 「やれるものなら、やってみなさい」 「それでは、御前試合を開始する。双方、始め!」  売り言葉に買い言葉で毒舌がエスカレートしていくのを遮る様に、進行役の力強い開始宣言が、競技場の中に響き渡った。それと同時にアンドリューがスラリと細身の剣を抜き放ち、そのまま藍里に切りかかってくる。 「家族同様、生意気で目障りな小娘が!! 魔術抜きで切り刻んでやる!」 「はっ、冗談でしょ!」  藍里は避けもせず、一歩足を踏み出しながら相手の軒先を凪払い、流れる様な動きで彼の眼前に刃先を突き出す。それをアンドリューは後ろに跳び退いて辛くもかわしたが、その時、藍里は異常を感じた。 (何? 今の一瞬、変な感じは?)  その違和感をきちんと確認する暇もなく、アンドリューが口汚く罵りながら、呪文を口にする。 「くたばれ、この恥知らずの小娘が!! ジェス、ガゥ!」  腕ずくだと容易では無いと見て魔術戦に持ち込む気かと、藍里は自分目掛けて一直線に飛んできた複数の炎の刃を横に跳んでかわしつつ、雷撃で反撃しようとしたが、その呪文詠唱が不自然に途切れた。 「リァン、キー、……っ!」 (重い? ついさっきまでは、普通に歩けたのに!?)  辛うじて炎をかわす事ができたものの、藍里は頭の中で想定していた距離の、半分も跳べなかった。その為、袴の裾の一部が焦げ、藍里は即座にその周囲に空気中の水分を凝縮させて消火する。その間にアンドリューは一気に距離を詰め、再度彼女に切りかかってきた。 「ほらほら! 大口叩いていた割には、手も足も出ないだろうが!? だから極東の田舎育ちは、口だけが達者だと言われるんだ!!」 (確かに母親が減らず口を叩くタイプの人間で、相手を煙に巻くのが得意だけどね)
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