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大振りな動きと同時に、衝撃波も放ちつつ接近戦に持ち込んできたアンドリューに、藍里は咄嗟に呪文を唱えて防御壁を張りつつ、薙刀の強化してある柄で剣の切っ先を受け止め、何とかかわし続けた。それと並行しながら、冷静に状況判断を続ける。
(身体の動き、特に足の重量感は、気のせいじゃない。競技場の地面に、明らかに何かの魔力が介在している。これじゃあ多分、草履を脱いでも無駄か。足袋だけになった途端、余計に攻撃を受けそうよね)
そこでアンドリューが急に、ある程度の距離を取ったと思ったら、剣を振り下ろしつつ声高に呪文を唱えた。
「クラン、ダエム、リ、エラ!」
「ユーデル、フィス、コ、タル!」
相手が敢えて距離を取った事で、次の攻撃の予想が付いた藍里は、慌てずに対抗する為の魔術を展開させる。その読みは当たり、藍里を中心とした半径3メートル程の範囲の地面が一斉に燃え上がったが、彼女の半径1メートルの範囲だけは耐熱耐圧ガラスの上に藍里が乗っている様に、その縁から炎が逃げる如く燃え上がった。
(間違い無い。歩けなくなる程の足止めだと明らかに他の人間にバレるから、身体が重く感じる程度に拘束するタイプの魔術よね)
そして次の攻撃に備える為、油断無く薙刀を構え直しながら、観客席から遠巻きに自分達を眺めている者達を、さり気なく観察してみる。すると対戦相手のアンドリューの一族郎党と同様に、審判が四人とも薄笑いしているのを見て、藍里は推察した。
(あの嫌らしい笑い……。観客席から直接何か仕掛けるのは難しそうだし、やっぱり実際にやっているのは審判か)
そこで藍里は変わらずアンドリューからの攻撃をかわしながらも、密かに基樹から伝授されていた、来住家に伝わる魔術を行使してみた。
「流、表、陣、明……」
すると藍里だけに感知できる細い光の糸が、自分の足元の地面から四方に伸び、四人の審判に繋がっているのが確認できた。
(れっきとした審判が、贔屓するだけじゃなくて、堂々と文字通り人の足を引っ張るとは恐れ入ったわ。当然、私がこの場で不正を訴えても、すぐに証拠を残さず魔術を解除できて、試合を理由もなく中断させたとして、処罰されるのは私の方って筋書きかしら?)
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