第1章 父の故郷は魔女の国

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「はい、私もアイリさんと呼ばせて貰って良いですか?」 「勿論です。宜しくお願いします」  そして二人が笑顔で微笑み合ってから、クラリーサと幾つかのやり取りをして、藍里は彼女を促して二階へと上がった。  周辺の住宅事情から考えると十分な広さの藍里の家には、きちんとした客間が存在し、ベッドやクローゼット、小型の机まで備え付けられていた。何故なら訪れる客人が父の仕事関係の外国籍の者が多く、ベッドの使用が日常的な人間が多かった為である。  改めて整えられた客間を見た藍里は、(ちゃんとしたお客様用の部屋があって助かった。今は居ないにしても、元は男性が使っていた部屋に暮らすって事になったら、クラリーサさんが密かに嫌がるかもしれないし)と、未だに兄達の私物が多く残っている部屋の事を考えて安堵した。 「先に送られてきた荷物は、ここに置いておきました。勝手に開けるのは失礼かと思ったので、そのままの状態にしてあります」  床に置かれた四つのダンボール箱を指し示しながら藍里が申し訳なさそうに告げると、クラリーサは笑顔で応じた。 「大丈夫よ。荷物は自分で片付けるし。ありがとう」 「何か手伝って欲しい事があったら、遠慮なく言って下さい。それからクローゼットの中に、聞いたサイズで作っておいた制服を吊してありますので、試着してみて下さい。じゃあ、夕飯ができたら呼びに来ます。ごゆっくり」 「分かりました」  そうして笑顔のまま藍里がドアの向こうに消えてから、クラリーサは無言でベッドに進み、乱暴に腰を下ろした。そして低い声で悪態を吐く。 「取り敢えず侵入成功だが……。本当に、グラン辺境伯夫妻は何を考えているんだ? 年頃の娘がいる家に男を引き込むなんて、正気の沙汰じゃ無いぞ。しかも本人には内緒にしておけとは、何の冗談だ」  誰がどう聞いても男性の声で、クラリーサはダニエルと万理に対する文句をひとしきり口にしてから、続けて藍里に対しての不満をぶちまけた。 「それにあの女、本当にあの敏腕で名高いカイルと、奇才と評判のユーリの妹なのか?  平々凡々な容姿の上、無礼で頭の悪そうな女じゃないか」  そこで溜息を吐いた彼女は、ある事を思い出して立ち上がる。 「そういえば、制服がどうとか言っていたな」
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