第3章 リスベラントへようこそ

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 自宅の物置からリスベラント日本支社社長室に移動した藍里達は、万事心得ていたルべトに見送られ、そこのドアを経由して楽々とアルデイン公国公宮に到達した。そのあまりに非常識な体験をしてしまった藍里は、一応頭では理解していたものの、盛大に顔を引き攣らせる。 (冗談だと思いたいけど……、本当にアルデインまで来ちゃったわ)  つい先程まで居た室内とは全く内装が異なる上、明らかに容姿が日本人とは異なる人物達の出迎えを受けて、藍里は否応なくここが異国だと認識させられた。そんな事をしみじみと考えていた為、彼女は周囲の人間が自分に値踏みをする様な視線を送っている事に気づいていなかったが、その無遠慮な視線に思わず眉根を寄せたルーカスが、その視線を遮る様に彼女の前に出て、担当者に声をかける。 「出迎えご苦労。諸手続きを済ませ次第、リスベラントに移動するつもりだが、手配は整っているだろうか?」  帰国するにあたって流石にルーカスは女装を止め、本来の短髪にスラックス姿になっており、その姿での堂々とした物言いに藍里は思わず(あら、さすがは公子様)と茶化したくなったが、周囲の空気を読んで神妙に控えていた。すると目の前のスーツ姿の男が、恭しく頭を下げる。 「こちらの準備は整っておりますので、早速、着替えをお願いします」 「分かった。案内してくれ」  その男性の先導で部屋を出て、皆で廊下を歩き出したが、藍里は不思議そうに並んで歩くセレナに問いかけた。 「セレナさん、着替えって?」 「リスベラントの文化レベルは産業革命以前のままですので、化繊や精巧な金具付の衣装を持ち込めません。ですからリスベラントに出向く場合は、そちらに即した衣装に着替える必要がありますし、精密工業品の持ち込みも原則不可です。申し訳ありません、それらに関しての説明を、失念しておりました」  囁き声で申し訳なさそうに解説された内容を聞いて、藍里は顎に手を当てて考え込んだ。
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