第3章 リスベラントへようこそ

4/26
前へ
/157ページ
次へ
 それを見た藍里は、一瞬(量は少なくても、燃えカスを残しておいたら目立つわよね)と心配したが、セレナは抜かりなく黒い固まりを魔術で空中に集め、ひとまとめにしてゴミ箱に放り込むまでをやってのけた。 「さすが……。燃えたのは虫だけで、衣装にも絨毯にも、全く焼け焦げた跡が無いわ」  虫が付いていたり落ちたりした場所を確認した藍里が思わず感嘆の溜め息を漏らすと、セレナは苦笑いで答えた。 「恐れ入ります。ですが今のアイリ様でも、十分できると思いますよ?」 「う~ん、やろうと思えばできるかもしれないけど、考えながらだわ。咄嗟にはできないわね。だけど、私って予想以上に歓迎されていないみたい」  苦笑いしながら小さく肩を竦めて指摘してみた藍里だったが、セレナは硬い表情で頭を下げた。 「申し訳ございません。これはアイリ様への反感と言うよりは、私への嫌がらせかと思われます」 「セレナさんへの? どうして?」 「私は、リスベラントの貴族社会では、白眼視されていますので……」 「どうして?」 「…………」  藍里が重ねて問いかけたが、セレナは無言で応じる。しかしそのまま互いに黙り込んで時間を無駄にしたりする事は無く、藍里はすこぶる現実的な行動に出た。 「とにかく着替えを手伝って? あまり遅いと、またルーカスに嫌味を言われちゃうわ」 「そうですね。お着替えと、それに合わせて髪もどうにかしないと。急いで仕上げます。アイリ様は、まず服を脱いで下さい」 「分かったわ」  そうして気を取り直して動き出したセレナは、常日頃の有能さを遺憾なく発揮して、藍里の支度を整えた。  着替えを済ませた藍里達は、この間、扉の前で控えていた侍女に案内されて、リスベラントに出向く者が待機する為の、待合室に足を踏み入れた。広々とした部屋に三組の応接セットがL字型に配置され、ルーカス達がその中の一つに落ち着いて寛いでいるのを認めた彼女達は、そこに歩み寄って軽く頭を下げる。 「お待たせしました」 「ああ、待たされたな」  即座にルーカスから返って来た台詞に、着慣れない裾の長いドレスに苦労しながら廊下を進んできた藍里は、流石に腹を立てた。しかしそこですかさずウィルが、取り成す様に会話に割り込んでくる。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

313人が本棚に入れています
本棚に追加