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「殿下。そういう事を、口にするものではありません。第一、女性の身支度には時間がかかるのは、古今東西変わりの無い事実です。お二人とも、素敵ですよ?」
そう言ってにこやかに褒めてきたウィルに、半分以上社交辞令だとは思いながらも、藍里は素直に頭を下げた。
「ありがとうございます」
ルーカスの出で立ちは、スタンドカラーで僅かに肩口が膨らんだシャツに、足にフィットしたズボンで、明らかに現代風の装いとは異なっているが、不思議と様になっていると藍里は思ったが、似合うなどと言って誰が喜ばせるかとそっぽを向いた。
(腐っても公子様だし、褒め言葉なんか聞き慣れていて、私が言っても微塵も感銘を受けないとは思うけど!)
「ねえ、そろそろ時間じゃないの? 扉の間とかに行かなくて大丈夫?」
「ああ、行こうか」
藍里に促され、ルーカス達は移動を開始した。そして窓が無い広い部屋に入ると、まず真っ先にドアの両側に二人、更に向かい側の壁にあるドアの前に二人、明らかにアルデインの警備兵と分かる松葉色の軍服で武装した男達が目に入り、藍里は一瞬たじろぐ。次に改めて向かい側の壁に設置してあるドアをしげしげと眺めた藍里は、軽く扉を指さしながらルーカスに囁いた。
「話に聞いていた『扉』って、あれ、よね? あれが異世界、リスベラントに通じているの?」
「そうだ。お前が四年前まで、グースカ寝ている間に通過していた物だ」
そう断言された藍里は、真顔で縦2m、横1m程に見える、木製の古ぼけたドアを凝視した。そして再び問いを発する。
「本当にリスベラントに通じているのはあそこだけ? もしくは扉の大きさが、魔術で大きくなったりはしないの?」
「本当にあそこだけで、枠の大きさも変えられない。だから互いの世界に、あの大きさ以上の物を持ち込めない。そもそも持ち込みには、厳しい制限があるが」
「想像していたのより、随分しょぼい、痛っ!!」
「黙れ。不敬罪と見なされて、この場全員に、寄ってたかって刺されるぞ?」
「…………すみません」
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