第3章 リスベラントへようこそ

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 思わず率直な感想を口にしてしまった藍里の腕を、ルーカスが素早くつねりながら叱責した。そこで彼女が改めて周囲を見回すと、扉の前には大きな机が二つ置かれており、そこで何やら書類仕事をしているスーツ姿の男性や、藍里達同様これからリスベラントに向かう者が数名見受けられ、彼らが自分達を興味深そうに見ているのが分かり、大人しく口を噤む。 「それでは、通過手続きに入ります。あなたのお名前を聞かせて下さい」 「ルーカス・ディル・ディアルドだ」 「確認しました。こちらで待機をお願いします」 「分かった」  ルーカス達が部屋を進み、片方の机の前に到達すると、扉の管理者らしい男性が書類を捲りながら机越しに質問を繰り出した。さすがにルーカスに対しては顔パスっぽい雰囲気だったものの、彼は一応既定のやり取りをしてから、扉の前に並んでいた者達の列の最後尾に並ぶ。 「それでは名前をお願いします」 「藍里・来住・ヒルシュです」 「ヒルシュ……」  次の藍里は気負う事なく名前を述べたが、その途端、室内の空気がざわりと動いた。彼女はそれを感じ取ったが、聖紋絡みでの御前試合の事や、色々性格に問題がある兄達の妹という事で耳目を集めているのだろうと理解していた為、平然と目の前の人物の反応を待つ。すると彼は、どう言って良いものか迷うような素振りを見せてから、結局平凡な言葉を口にした。 「……お気をつけて」 「どうも」  藍里もそれ以上言いようが無く、軽く会釈してルーカスに後ろに並んだ。それからセレナ達が後に続き、全員が扉の前で一列に並ぶと、時間を確認した担当者が椅子から立ち上がり、渡界希望者達に言い聞かせる。 「それでは時間ですので、扉を開けます。まずリスベラント側からの通行者が通り抜けてから、こちらからの通過をお願いします」  それから徐に扉を開けていくと、その枠の中にここに来るまでに通過した時と同様の、漆黒の空間が見えてきた。少しの間全く変化は見られなかったが、何か色が見えたと思ったら、紺のスーツ姿の中年男性が姿を見せ、室内に足を踏み入れる。そして次々にワンピース姿の少女や、ジーンズ姿の学生っぽい青年などが現れて、藍里は今現在の自分の姿と併せて考えて納得した。 (こっちに来る方は、現代風の衣装で来る必要があるわね)
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