第3章 リスベラントへようこそ

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 彼らは、一つの机の前に一列に並び、担当者から確かに渡界したとの確認を取って貰い始めると、扉を開けたままの担当者が、扉の前に並んでいる者達に通る様に促した。皆経験者らしく、一人ずつゆっくり扉の向こうの闇が広がる空間に足を進めていき、すぐにルーカスの番になる。 「じゃあ、先に行くぞ」  そう言い置いて、ルーカスも躊躇う事無く歩き出し、すぐにその背中が扉の向こうの闇に包まれて見えなくなった。その一連の流れを見た藍里は、視界が利かない空間に進む事に加え、先程から感じている何とも言えない重圧感を感じて、彼女には珍しく正直回れ右したい気分になる。 (何、これ、ちょっと気持ち悪い。物置とか会社の戸をくぐった時も違和感を覚えたけど、その時以上に、なんとなくざわざわする。怖いとか鳥肌が立つと言うのとは、また別の感覚だけど)  そうは思ったものの、後がつかえている事もあり、藍里はこの数年意識していなかった、父親の故郷に向かって足を踏み出した。 「うわっ、と。到着、したのよね?」  どうにも床や地面を踏みしめる感覚が掴めないまま、おっかなびっくりで数歩進んだ藍里は、急に視界が開けたのと同時に、足裏にしっかりとした感触を覚えて、その場に呆然と立ちすくみながら呟いた。それを見たルーカスが疲れた様に溜め息を吐き、腕を伸ばして藍里の腕を引っ張る。 「さっさとこっちに来い。次の人間が出てくる」 「そうね」  慌てて扉の前から離れた藍里が注意深く周囲を観察すると、先程の部屋と同様に室内には二つの机があり、その一方の机の前に連れて行かれた。 「ほら、ここで名前」 「ええと……、藍里・来住・ヒルシュです」  ルーカスに促されて、反射的に藍里は名乗った。するとアルデイン側と同じ反応が周囲から返ってくる。 「申請通りなのを確認致しました。お通り下さい」 「はぁ……」 (揃いも揃って、視線が微妙。興味津々と敵対視が半々?)  向こうよりは冷静だった担当者に手振りで促されて、藍里は少し離れた場所に下がった。そして最後のジークが到着し、皆で移動を開始する。 「ここはリスベラント央都の公宮よね?」 「ああ、そうだ。政務が執り行われている正宮と、ディアルド公爵家が居住する前宮と、この扉を管理運営する奥宮で構成されている。大体の配置も、今述べた順になるな」  周囲を観察しながら藍里が尋ね、それに淡々とルーカスが説明した。
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