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「そうなると、公爵家のプライベートより、扉の方が優先だと聞こえるけど?」
「当然だろうが」
「言い切る所が凄いわ……、え? 何?」
きっぱりと断言したルーカスに、藍里が半ば感心した声を漏らすと、頭上で常には聞かれない異音が生じた。反射的に藍里が顔を上げると、その吹き抜けの通路の天井に吊り下げてある、かなりの大きさのシャンデリアが、接続用の金具ごと落下してきた。
「ジャス、レー、ビト」
しかしジークが淡々と呪文を唱えると藍里達の頭上約50cmの所で、それが粉砕されて破片が四方に飛び散る。
「きゃあっ!」
予想外の出来事に、藍里は思わず頭を抱えてしゃがみ込んだが、かなり大きなクリスタルガラス製の破片が壁にめり込んで、床に無数の破片となって落ちていても、藍里達には小さな破片一つ降りかからなかった。
「うわ、見事に粉々。後片付けが大変そう……」
危険性が無いと分かってから、恐る恐る立ち上がりつつ藍里が口にすると、ジークが事も無げに告げる。
「仮にも公宮内で、こんな仕掛けを見逃すか黙認する輩です。面倒な後始末位させて、当然です」
すこぶる真顔でそんな事を言われて、藍里はそれ以上言うのを止めた。
それから口数少なく進んだ藍里達だったが、階段をそろそろ上り切ろうとしたところで、一切の前触れ無く、その階段が崩落し始めた。
「うわっ! きゃあっ!!」
「ミル、レンファ、ジン」
しかしすかさずジークが藍里を、ウィルがセレナを抱え上げ、空中に浮かび上がった。最前列にいたルーカスだけは、崩壊しかけた階段を勢い良く飛び上がりながら、無事上層階に到達する。ルーカスも無傷なのを見て取ったジークは安堵した口調で、自分と同じく浮いているウィルに話しかけた。
「浮遊魔術が使える人間には支障は無いが、そんな使用人ばかりでも無いのにな」
「自分の生活に支障が出れば、嫌でも分かるだろう」
「同感だな。さあ、行くか」
そして藍里達を抱えたまま二人は静かに空中を移動し、唖然としている藍里を促して、再び廊下を歩き始めた。
「おっと……」
今度は何やら無数に飛んできた透明の物体を、素早くルーカスが自分達の周囲に結界を張って防ぐと、それに弾かれた影響からか球体の形が崩れて落下した。その液状の物が落下した直後に生じた異臭で、藍里が顔色を変える。
「何、この匂い!? それに周りの絨毯が変色しているし、まさか濃硫酸とか?」
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