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「この手の類は良く知らないが、多分そうだろうな」
「軽くスルーしちゃうの!?」
顔色を変えた彼女に、ルーカスは軽く首を傾げただけで再び歩き出したが、その前に突如として炎の壁が発生した。
「きゃあっ!! なんでいきなりこんな火が!?」
「良い燃えぶりですが、ガソリンを仕込んだ普通の火ですね。ウル、二アー、エスタ」
しかしセレナは冷ややかな視線を向けつつ呪文を唱えると、ものの数秒でそれが消失する。
「セレナさん? 水はかけて無いわよね?」
「燃えている箇所の周囲限定で、真空状態を作り出しました」
「……酸素が無かったら、燃えないわね」
そうして再び歩き出した藍里だったが、襲撃を受ける度に、周囲から聞こえてくる悲鳴や怒号について、一応周囲に確認を入れてみる。
「周囲の被害が甚大な気がするけど?」
「気のせいです」
「……そうですか」
(やっぱり『ディル』なだけあるわ、この人達)
藍里は改めて、彼らの能力の高さを実感しながら、正宮の正面玄関まで辿り着いた。そして藍里とセレナは用意されていた馬車に、男性陣は馬に騎乗して、央都内にあるグレン辺境伯邸に向かう。その馬車がリスベラント公宮の正門を抜けて走り出してから、ものの五分程で、外の景色を眺めていたセレナが呟いた。
「着きましたね」
「ここが……、は? 何、あれ!?」
「アイリ様? どうかされましたか?」
窓から外を眺めて、いきなり素っ頓狂な声を上げた藍里に、セレナが訝しげに尋ねると、彼女は困惑顔で問いを発した。
「常識的に考えて、これだけの敷地がある貴族の邸宅って、屋敷の周囲に庭園が作られるものじゃないの? これって、私の偏見?」
すると何故かセレナが、微妙に視線を逸らしながら答える。
「いえ……、確かにこの屋敷がグレン辺境伯の手に渡るまで、それは見事な庭園がありました。何と言ってもこの旧オランデュー伯爵邸は、公宮を除くと央都一の規模を誇っておりますので」
「それなのに、どうして敷地一面が畑なの?」
視界一杯に広がる、良く耕された地面に、緑の葉や実を付けている名も知らない植物が整然と、幾重にも列をなして植えられている光景に、藍里は納得がいかない顔付きで更に尋ねた。それに溜め息を吐いてから、セレナが言いにくそうに告げる。
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