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「漏れ聞くところによりますと……、ユーリ殿が『庭を見ても腹が膨れる訳じゃないし、それよりは薬草栽培をした方が何倍も有益だ』と主張したとか。それからカイル殿が『どうせなら、これまでリスベラントに自生していなかった有用な薬草を育てて、服用法を広めながら独占販売で売りさばけ』と唆し……、あ、いえ、ご提案されたとかされないとか……」
最後は慌てて言い直したセレナから視線を外しながら、常に抜け目の無い兄達だったら言いかねないと思った藍里は呻いた。
「二人とも……、何を考えているのよ」
藍里は兄達の普段の行いに対して頭痛を覚えたが、ここで静かに馬車が止まった。
「着いたみたいね……」
「はい」
しかし口ではそう言いながら、外に出れば今話題にした見事な畑が目の前に広がっている為、何となく気まずそうな顔を見合わせた女二人は、立ち上がるのを躊躇った。しかしこのままずっと座っているわけにもいかず、藍里は自分自身を鼓舞する様に叫びながら立ち上がる。
「さあ、行くわよ!」
そして藍里は勢い良くドアを開け、馬車の外で待機していたウィルが素早く引き出した乗降用のステップに、慎重に足を踏み出した。そして地面に降り立つと同時に、正面に存在している威容を誇る邸宅を見上げ、首を傾げる。
(確かに見覚えが、あるような無いような……)
取り留めのない事を考えていると、藍里達を出迎える為に玄関から出て来ていた悠理が、爽やかな笑顔を浮かべながら近付いて来た。
「藍里。変わらず元気そうだな。日本での訓練は順調だったか?」
「悠理、この一面の畑は何!? 確かにこの屋敷に微かに見覚えは有るけど、普通の庭だった筈よ!?」
四年ぶりに訪れた、記憶と異なっていた屋敷について、藍里が思わず突っ込みを入れたが、悠理は平然と笑って応じた。
「お前がこっちに来なくなってから、本腰入れて耕したからな。邪魔な庭木を掘り起こして廃棄するのが、予想以上に大変だったぞ」
「庭を造った人が泣くわよ?」
「建国して間もない時に造った名園だったらしいから、造った人間はもう悉く死んでいるから大丈夫だ」
「そんな名園をぶっ潰して畑にしたら、どう考えたって周りから白眼視されるわよ! どこが大丈夫なの!?」
しかし顔色を変えたのは藍里だけで、悠理はこの間、兄妹の会話を黙って聞いていたルーカス達に向き直った。
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