第3章 リスベラントへようこそ

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「今は俺だけだが、順次全員揃うからな。取り敢えず中に入れ。皆さんもどうぞ、お入り下さい。今、お茶を出しします。それから四人の滞在の支度も整えてありますので、どうぞご遠慮なく」  その申し出に、ルーカスが若干顔色を変え、控え目に断りの言葉を口にした。 「え? あ、いや、俺達は彼女を送り届けたら、公宮に戻る様に指示を受けているが……」  しかしそれに対し、悠理は一見邪気の無い笑顔で応じた。 「この間、藍里を護衛して頂いた労を、父が是非とも労いたいと侯爵閣下に申し入れ、快く承諾のお返事を頂いたとの事です。早速、今夜の晩餐はご一緒にと、父からの伝言を預かっております」  自分達の退路が断たれた事を悟ったルーカスは、心の中で父親である公爵に恨み言を呟きつつも、静かに礼を述べた。 「……了解した。お世話になろう」  そんな彼の背後で、ジーク達が囁き合う。 「ヒルシュ家が、全員揃うわけか……」 「心臓に悪そうですね」 「まともに食べられるか、自信がないな」  そんな悲喜こもごもと、様々な人物達の思惑を集めながら、その日、ヒルシュ一家は久々に全員が顔を揃え、晩餐の席を賑やかに過ごす事になった。  心ならずもヒルシュ家の晩餐に同席したルーカス達は、食事を終えてから家族だけで改めて寛ぎたいとの申し出を受けて、内心の安堵を隠しながらその場を辞去した。そして屋敷の侍女に案内されて本棟から渡り廊下で別棟へと移動し、各自割り当てられた部屋へと入る。  しかし当然そのまま休むには早く、そのフロアには階段の上がり口にかなり広いスペースが確保されていて、そこに点在する椅子で自由に歓談できる仕様になっていた為、誰かが言い出す事も無く、自然に各自部屋に備え付けてあった酒やグラスを手にしてそこに集合した。 「……疲れた」 「食べた気がしませんね」  ぐったりと背凭れに身体を預けたルーカスが思わず愚痴を漏らすと、ウィルも沈鬱な表情で頷く。それを見たセレナが、苦笑しながら宥めた。 「ですが……、アイリ様が、とても楽しそうに笑っておいででした」  そう言って嬉しそうに微笑んだのを見て、食事中の一家の様子を思い出した彼らは、自然に渋面を和らげた。 「確かにそうだな。ダニエル殿は最近、益々リスベラントで重きを増しているし、マリー殿も忙しく行き来していたから、家族全員が久し振りに顔を合わせたと言うのは納得だ」
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