第3章 リスベラントへようこそ

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「きちんと認識してから初めてリスベラントに来た上に、三日後には御前試合ですから。必要以上に緊張するのを回避するには、家族団欒は有効でしょう。あのカイル殿でさえ、上機嫌でしたからね」 「しかしいつにも増して、カイル殿のお前に対する態度は冷たかったな」 「仕事中は、あれでも抑えていたみたいですね」  急に話の流れが変わり、同僚達から同情の眼差しを向けられたジークは、居心地悪そうに無言でグラスを傾けた。そんな彼を、ルーカスが胡乱気な視線で眺める。 「以前にも聞いたが、お前、ヒルシュ家で生活していた時期に、一体何をやらかした?」 「……子供の喧嘩の延長です」  視線を合わせずに呟いたジークに、ウィルが小さく肩を竦める。 「喧嘩か……。あのカイル殿相手に、どんな喧嘩をしたのやら」  そう皮肉を口にしても、ジークは無言で酒をちびちびと飲んでいるだけで、他の者は早々に追及を諦めた。  それからは暫く御前試合までの警護内容の確認や、ここ暫く留守にしていたリスベラント国内の政治情勢について論じていた面々だったが、ふと思い出した様にルーカスが呟いた。 「しかし……、辺境伯夫妻は何を考えている。ここの棟から本棟までそんなに離れてはいないが、いざ襲撃を受けたりしたら駆けつける時間を浪費する上、渡り廊下を襲撃されたら、分断されて厄介だろうが。第一ここは、住み込み使用人用の居住区間だろう?」  ルーカスが指摘した内容は尤もの上、他の三人も同様の事を案内された時から懸念していたものの、ヒルシュ家の面々にそれを指摘するのも躊躇われた為、何とも言えない顔を見合わせた。しかしそこで噂していた一家が、楽しげに言葉を交わしながら渡り廊下を自分達の方にやって来るのが見えた為、全員が慌てて立ち上がって出迎える。  「あれ? 皆、こんなところで飲んでいたのね」  実家の屋敷内という事で、昼間に来ていた物よりは簡素なワンピース姿の藍里が軽く手を振りながら近づいて来た為、セレナは不思議に思いながら問い返した。 「明日以降の打ち合わせなども、兼ねておりまして。あの、皆様はどうして揃ってこちらにいらしたのですか?」 「どうしてって……、寝室がこっちにあるって聞いたけど、悠理、違うの?」 「え?」  問うた方も問われた方も怪訝な顔で悠理に顔を向けると、彼は笑いながら説明した。
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