第3章 リスベラントへようこそ

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「間違っていないぞ? お前の部屋は、この左側の廊下を進んで、右列の突き辺りから手前に三番目の部屋だ。室内に必要な物は一通りそろえてあるが、隣がセレネリアさんの部屋にしてあるから、何か分からない事があったら彼女に聞け。見ず知らずの侍女を呼びつけるより、気が楽だろう」 「うん、分かったわ」 「すみません、セレネリアさん。ご迷惑おかけします」 「いえ、それ位は何でもありませんが……、皆様もこの棟でお休みになるのですか? こちらは、使用人が生活するスペースでは……」  恐る恐る相手の気分を害しない様に尋ねてみたセレナだったが、その疑問には、笑いを堪える様な声で界琉が答えた。 「通常の貴族の館ならそうでしょうが、うちは普段リスベラントに常駐しているのは、俺と弟だけで、部屋も人手も大して必要としませんから。本棟に客間は常に整えてありますが、他の無駄と判断した部屋は全て閉鎖してあります。使用人も、殆どが通いですし」 「……そうでしたか、存じませんでした」 「ですからプライベートスペースとして使うなら、この棟だけで事足りています。さすがにここの一階は、住み込みの使用人の居住スペースになっていますが、私達家族だけなら、二階と三階で十分ですから」 「そうでしたか。変な事をお聞きしまして、申し訳ありません」  事情を聞いて(確かにこの一家に、リスベラントの常識が通用する筈も無かったわ)と納得したセレナは、軽く頭を下げた。ここで藍里が就寝の挨拶をしてくる。 「じゃあ、お休みなさい。疲れたから休ませて貰うわね」  時差の関係でとっくに寝ている時間になっていた為、軽く欠伸をした藍里を見て、悠理が苦笑いしながらセレナに声をかけた。 「セレネリアさん、ちょっと妹に付いて行って、藍里に部屋の使い方とかを教えてくれませんか? 風呂付ですが、使い慣れていないと戸惑う事が多いと思いますから」 「分かりました。それでは行きましょうか」 「はい、お願いします」  そして女二人で歩いて行くのを見送ってから、この間黙っていたダニエルが口を開いた。 「ジークロイド、久しぶりだな。時々人伝に話は聞いていたが、全然顔を見せなくなっていたからな。元気そうで何よりだ」  表面上はにこやかに声をかけてきたヒルシュ家当主に、ジークは傍から見てもはっきりと分かるほど顔を強張らせた。そして恭しく頭を下げる。
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