〔十四〕第三八千代病院

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「だってそうでしょ、アタシがセーメイ様をやろうって言い出したんだよ。  それに思い出したんだ、セーメイ様が帰らないのを由衣のせいにした。アタシはその事を由衣に謝っていない……もう謝ることもできない……」  凜の頬に涙が伝った。 「責任の奪い合いはこれまで」  母の言葉が口をついて出た。 「え?」 「誰のせいだとしても、もう由衣は帰ってこない。だから今できることを考えた方がいい」  凜は頬の涙をぬぐった。 「そうだね……」 「わたし、験力の使い方を覚えるために福島に行く」 「それって転校するってこと?」  香澄が寂しげな表情になる。 「多分そうなると思う……」 「こっちじゃ出来ないの? おじさんもその能力(ちから)を使えるでしょ?」 「もう二度とこんな事を起こさない、そう決めたの。そのためには、おじいちゃんに教えてもらった方がいいと思う。おじいちゃんは本物のお坊さんで、験力のスペシャリストなんだって」  実際に悠輝からは、祖父は真言宗系列の修験寺の住職で副業で拝み屋をやっており、験力の扱いには長けていると言われた。 「朱理ちゃん、オジコンなのにいいのぉ?」  香澄の言葉に思わず凜が微笑む。 「わたしはオジコンじゃない! それにおじさんも一緒に福島に行くし」 「じゃあ、ラブラブだねぇ」 「降矢のことはもういいんだ?」 「だから降矢くんの事だって別に何とも思ってない!」 「プッ、ハハハ……」 「アハハハ……」 「フフフ……」  三人の笑い声が病室に響いた。  再び笑えるなんて思っていなかった。 「朱理、戻って来るんでしょ?」  ひとしきり笑うと、凜が真顔に戻って聞いた。 「うん、どれぐらい時間が必要かわからないけど、お父さんはこっちに残るし、必ず帰ってくるよ」 「待ってるからねぇ。戻ってきたら、また一緒に遊びにいこう」 「うん、約束する」
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