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僕は自分の本当の名前を知らない。記憶を遡ることはほとんどかなわないような生き方をしてきた。
自分がどこに由来し、何のために生まれてきたのか、何を望まれているのか、まったくもってわからない。
ただ、戦場では、楽だった。目の前の彼らは、純粋に恐怖し、僕の死を願ってくれた。わかりやすく、気持ちのいいやつらだ。
嫌いなのは、僕に金をくれる雇い人、貴族の人間たちだ。
そのまとわりつくような粘っこい視線にさらされるだけで、吐き気を覚えた。
それはおそらく、僕が彼らの嗜好にあった美しさをその外見に備えているからだろうと推察できた。
僕はまだ若く、美しい金色の髪を持っていた。それはありがたいことに、戦場で多くの目をひきつけた。
なので僕はいつからか兜をかぶることをやめ、自分の特徴をいかんなく戦場に示すことで、より多くの殺意を受け取り、つみとることで、より多くの金を得てきたのだった。
ただ、僕を見る彼らの目が残す最期の揺らぎは、決して気持ちの良いものではなかった。その目は夜毎に僕を苦しめ、眠りを妨げるのだった。
そして語る。
「何のために殺すのか。何のために、生きるのか」
それは確実に、僕を死に追いやっていた。僕の魂に向け、小さな刃を、ゆっくりと、それでも着実に、深く、深く。
「う、うちの騎士団に加わらんか?報酬も今の2倍、いや3倍は出せるぞ!」
怯えを含んだその貴族の目は、しかし僕のことを確実に蔑んでいた。僕のような人間に、このような美しさがあることを憎みながら、しかし宝飾品としての価値を確かに認め、それを自分のものにしたいと語っていた。
僕は報酬の入った皮袋を受け取ると、吐き気を覚えながら微笑んだ。
そんなことができるようになったのは最近だ。
その方が楽だから、という消極的な理由から生まれた処世術だった。
「このあたりの紛争は終わりました。傭兵は戦場でしか生きられませんので」
「ど、どうして死に急ぐ?何のために生きているのか!」
その言葉に、僕の心は凍りついた。
ただ、もう慣れていたので、特に何事も起こらなかった。
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