Prologue

2/2
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 今の僕があるきっかけは、大事な物を無くした時だった。 「あれ……無い。無いよ。どこ? どこいったの?」  ズボンのポケット、ランドセルの中、机の周囲。  当時小学生だった僕は、必死に無くし物を探した。  それは、カンバッジだった。  そう。何の変哲も無い、鳥のシルエットが入った小さなカンバッジ。だけど当時の僕にとっては、ボクの存在を証明する大切な“証”だった。  その証が無いとみんなと仲間にはなれない。無くしたと知られたら仲間から外される。僕に仲間がいなくなる。  僕は考えた。どうすればみんなと仲間のままでいられるのか。新しいバッジを買おうにも、今はどこにも売っていない。どうにか手に入れる手段はないかと必死に頭を働かせた。  やがて、ある事を思い出すと同時にひとつの考えが浮かんだ。 『笑太、向こうでも元気でな。お前はずっと、アラワシ団の一員だからよ』 『わはっ! ありがちょんまげ侍! オイラ達ずっとマブダチンゲンサイだぜ!』  去年の夏、突然転校した“天野笑太(あまのしょうた)”君。  そうだ。彼からバッジを譲って貰えばいいんだ。  僕はみんなにバレる前に急いで家に帰ると、引っ越し先の住所を調べるべく今年天野君から貰った年賀状を確認した。  天野君は僕の住む町よりずっと人の多い都会に引っ越していた。何本も電車を乗り継ぎ、知らない土地を歩き回り、人見知りなのに人が多いところに行かなければならない。 「……ボクに行けるかな?」  それでも僕は、今のボクのままで居続けるため行くしか無かった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!