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「おめでとうございまーす!」
半被を着たおじさんの野太い声と共に、手の平サイズの金色の鐘の音が商店街に響き渡った。
回すと玉が出てくる木製の抽選機の受け皿には、金色の玉が一つ転がっている。
「あ、当たっちゃった……」
野菜がたくさん入ったレジ袋を肘に下げながら、私、冴木胡桃(さえきくるみ)は、呆然と呟いた。
高校卒業後、母が営む小さな弁当屋で働いていた私は今年二十三歳になる。
馴染みのお客さんに商店街の福引券を貰って、夕食の買出しのついでに寄った抽選会場で、まさか一等を当てるとは……。
夕時だというのに、商店街には人はまばらで、歩いている人の多くは還暦をとっくに過ぎたおじいちゃんおばあちゃんが殆どだ。
数人が物珍しさに足を止め、笑顔で拍手を送ってくれている。
「あの、一等の景品って……」
じわじわと喜びが湧いてきて、高揚する胸を抑えながら身を乗り出して聞く。
商店街の片隅に一畳ほどのスペースで抽選会を一人で行っていた五十代半ば頃のおじさんが、威勢よく言い放った。
「一等はなんと、豪華客船のパーティー券だよ!」
どうだと言わんばかりの顔で言われ、私はポカンと口を開けて固まった。
パーティー券って……。
期待外れの内容に、がっくりと肩を落としてしまう。
「えー、私それならここに置いてある洗剤の詰め合わせセットの方がいい」
長テーブルの上には、抽選機とティッシュやお菓子、そして洗剤の詰め合わせセットが置かれていた。
「なに言ってんだよ、このパーティーはお金を払ったって一般人は参加できない、セレブが集まる豪華パーティーだ。
お嬢ちゃんくらいの年齢の女の子は泣いてほしがるプレミアムチケットだよ!」
「それ聞いてますます行きたくなくなった。セレブの集まりとか興味ないよー」
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