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バシャバシャと豪快に洗うと、染みはなんとか落ちたけれど、濡れてしまってもう着ることはできなさそうだ。
母から貰った大事なワンピースに染みはついていないだろうかと入念に目を凝らして見てみたけれど、どこにもついていなかった。
これぞ不幸中の幸い。
大きく胸を撫で下ろした。
もう、着替え終わったよね?
濡れたカーディガンを手に持ち、恐る恐るリビングへと戻る。
私がシャツを汚してしまった人物は、どうやらとんでもない大金持ちらしいということは、このスイートルームを見れば分かる。
なんでこんなことになってしまったんだろうと、自分の失態を恨めしく思う。
大人しくしていればいいものを、つい食い意地が張ってしまった。
「あの……」
着替え終わったようで、タキシードを羽織っている彼の後ろ姿に、か細い声を投げかける。
振り向いた彼と目が合うと、あまりにも端正な顔立ちに心臓が跳ね上がる。
慌てて視線を逸らし、バッグから財布を取り出そうと手を突っ込んだ。
「先ほどはすみませんでした。シャツのクリーニング代……」
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