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「それなら私は行くね。一人になりたいんでしょ」
これ幸いと言わんばかりに、戻ろうとすると再び腕を掴まれた。
「待て。だからって別に一人が好きなわけじゃない」
なんだそりゃ。
要は、話し相手になれってこと?
なんで私が。
「お前さ、俺と一緒にいられて嬉しくないの?」
「は?なにその発言。自信過剰すぎてキモいんですけど」
「キモいかぁ、初めて言われたな。笑って流したいところだけど、ムカつくな」
ムカつくと言って睨んでいるけれど、全然怒っているかんじがしない。
むしろ楽しんでいるように見えた。
……変な奴。
風が体を冷やす。
カーディガンは着れないので、二の腕をさすっていると、彼がタキシードを脱いで私の肩にかけた。
あまりにも自然なその所作に、思わず胸が高鳴った。
肩幅の広い大きな服に包まれると、まるで風から身を呈して守ってもらっているような気持ちになる。
それに、香水の匂いだろうか、爽やかで甘い、いい香りもする。
なんだか妙に照れ臭くなって、俯きながらお礼の言葉を言おうと口を開いた時――。
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