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「言わない!絶対言わない!」
「なんでだよ!」
「言ったら婚約者のふりさせられるでしょうが!」
喧嘩のような押し問答が続く。
お互い一歩も引かない構えだ。
「いいだろ、ふりくらい!」
「だからなんで私なのよ!
そんなにモテるなら婚約者のふりでもいいからしたいって子はいっぱいいるでしょう!」
「そうだよ、だからお前なんだよ。俺のことを好きじゃないお前だからいいんだ」
「は?何それ……」
先ほどまでの勢いはなくなり、彼は大きなため息をついて悩みを吐露するように語り出した。
「もうすぐ三十歳になるからか、最近周りが結婚しろと煩いんだ。
一人息子だからな、早く跡取りを産んでほしいんだろ。
だが俺はまだまだ結婚するつもりはない。
それなのに次から次へと見合い話だ、どこぞの娘とデートだけでもしろだの、とにかく強引に勧めてくる。
特定の恋人がいればかわせるんだろうが、そんな女もいない。
仮に作っても今度は女の方から結婚をおし進めてくるだろう」
話の暗いトーンからして、本気で困っているのだろう。
御曹司も大変なんだなと同情する気持ちが湧いて、いかんいかんと首を横に振った。
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