はじまりの鐘が鳴る

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 白を基調とした大きな団地のマンションのような佇まいの病院に入る。 ここは床数六百を超える総合病院だ。  ナースステーションの面会受付のノートに名前を記入して、母が入院している大部屋へと急ぐ。  すっかり顔馴染みとなり仲良くなった同室の五人の患者さん達に明るく挨拶をして、窓際のベッドで寝ている母の元に行った。 「遅くなってごめんね」  カーテンを開けて中に入ると、母が口元に笑みを浮かべてゆっくりと上半身を起こした。 「起きなくていいよ、寝てて」  母の背中に手を当て、再び横にさせると、母は弱々しく「ごめんね」と言った。顔を大きく横に振り、ベッドの脇にあった丸椅子に座る。  母が入院してから、もう三ヶ月になる。 最初は「腰が痛い」としか言ってなかったから、疲労かヘルニアか何かだろうと思っていた。 母もそうだと思う。 お医者さんが「念のためMRI検査を受けましょう」と言った時、「そんな大げさな」と言っていたから。
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