はじまりの鐘が鳴る

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渋る母を説得してMRI検査を受けたら、悪性腫瘍が見つかった。 いわゆる脊椎がんだった。  それから化学療法の治療のために大病院に入院した。 副作用により、年齢より若く見えて、明るく朗らかだった母の姿は、この三ヶ月で激変してしまった。 痩せ衰え、髪の毛は薄くなり、今では年齢より五歳は老けて見える。  十八年前に、父が交通事故で亡くなってから、母は私を女手一つで育ててくれた。 頼る親戚もいなくて、残ったのは開店したばかりの小さな弁当屋だけ。 父が残した弁当屋で、母は私を育てるために一生懸命働いてくれた。 高校卒業後は、私も母を手伝って弁当屋で働いた。 売上も伸びてきて、これからだねって言っていた矢先だったのに……。 どうして神様は、悲しい思いをしながらも真面目に一生懸命生きてきた母に、試練ばかりを与えるのだろう。 「あのねお母さん、今日商店街の福引きで一等当てたんだよ」  暗くなってしまう考えを打ち消し、努めて笑顔を投げかけた。 すると、母の顔にもぱっと桃色の花が咲いたように明るくなった。
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