はじまりの鐘が鳴る

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「美味しい料理が出てくるらしいよ」 「まあ!何が出てくるのかしらね!キャビアとかフォアグラとか……?」  セレブが食べる美味しい料理と聞いて、思い浮かぶのは親子揃ってキャビアやフォアグラしか出てこない。 それが面白くって思わず噴き出した。 「それじゃあ、どんな料理が出てきて、どんな人達が来るのか、観察するために行ってみようかな」 「うん、行っておいで」  そう言った母の顔は、とても優しくて柔和な笑顔だった。 ーーー……  商店街の一角の軒並みに、客が四人も入ればいっぱいになってしまうほど小さな弁当屋がある。 そこが、私の店だ。  店内に椅子はなく、カウンター越しに注文を聞く。 私は一応、調理と接客を担当しているけれど、主に作っているのは萩原さんという明るく人の好い六十代のおばさんだ。  萩原さんは、父が亡くなってからパートで入ってきての付き合いなので、かれこれ十八年はうちで働いてもらっている。 母が入院してからは、定年で仕事を辞めたばかりのご主人を無理やり店に引っ張ってきた。 「ご主人にも迷惑をかけて申し訳ないです」
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