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「ううん、大丈夫。出港は二十時からだからまだ時間はあるの。
ここから行けば三十分で着くし、今日は戸締りまで店にいれるよ」
商店街の客層が高齢なので、店を閉める時間も早い。
うちは十九時すぎにはシャッターを下す。
「ちょっとやだ、その恰好のままパーテーに行く気?」
黄色いエプロンの下は、いつものジーパンにTシャツ姿の私を見て、萩原さんは顔を顰めて言った。
「え、駄目かな?」
「駄目よ!とびっきりおめかしして行かなきゃ!
今から家に戻って、着替えて化粧もして……あらやだ、時間がないじゃない。早く帰りなさい」
「ええ、化粧も?」
面倒臭そうな私の背中を押して、従業員出入り口へと誘導する。
「もちろんよ。胡桃ちゃん素材はいいんだから化粧したら化けるわよ、きっと。
いい出会いもあるかもしれないし。さっ、ほら早く行った」
いい出会いねぇ。
でも来るのはセレブばっかりでしょ?
次元が違いすぎて相手にされるわけがない。
なかば追い出されるように店を出た私は、渋々ながら家に向かった。
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