38人が本棚に入れています
本棚に追加
― 一四話 ―
私はライトが痛む腹を押さえているので、自分なりにかなり心配をした。
「ライト、大丈夫ですの?」
「な、なんとか、なりそうです」
私は、こんな時こそと思い、部屋の花瓶に生けてあった、前世でいうところの薔薇によく似た花の花びらを一枚千切り、普段は面倒なので手袋で隠している、羽の形のあざから、自分の羽ペンを取り出した。
「姫様?何をなさるおつもりですか・・・?」
私はシャドウの問いには答えず、静かに花びらに羽ペンを滑らせる。
「「胃薬・・・?」」
そう、私が花びらに書いたのは、こちらの言語で『胃薬』。
私のこの羽ペンで書いた言葉は、『事実』になる。この羽ペンで物事を綴ってしまえば、すべてが『事実』になる。
幼い時に私は、この羽ペンを使ってこっそりと物語を書いていた。
一人の名もない、貧民街で育った少年が、『リズフェリト商会』を立ち上げ、様々な嫌がらせを受けながらも、その商会を国一番の商会にするという、下剋上の物語だ。
しかもその少年は、最後には、国の第三王女と結ばれることにしていた。
するとどうだろう。本当にリズフェリト商会は発足し、この国の第三王女は平民と恋に落ち、王族と名乗るのをやめ、平民に身分を落として二人は仲睦まじく過ごしている。
それを知って私は愕然とした。
それから物語は、決してこのペンを使って書かないと決心した。
まあ便利なことには便利なので、こうやって消耗品くらいは時々作っている。
「これを飲めば大丈夫よ。お腹が痛くなくなりますわ」
「本当でしょうね・・・?
ま、姫様から頂きましたし、飲みます」
そういうと、ライトは、シャドウに水を用意してもらうなり、私の作った胃薬を飲んだ。
「・・・味も効果も、普通の胃薬と大して変わりませんが、効いたようです。
しかしその羽ペンは便利ですね・・・。見た目が変わらないのがあれですが、ガラスの破片に刃と書けば、本当に刃がつきそうですよ」
「色々と試してきたので、効果のほどは心配してはいませんでしたが・・・。
次からは、ライトの言ったように、別の物に別の者の特性をつけることが出来るのか、試したいですね・・・」
私は真面目な顔つきで思案していたとき、ノックが部屋に響いた。
「失礼いたします。陛下がお呼びです、姫様」
猛烈に嫌な予感がした。
最初のコメントを投稿しよう!